
自己破産は、債務整理における最後の手段とも言えます。そのため、もし自己破産ができなければどうなってしまうのかと不安を持つのも当然といえます。
そこで本記事では、自己破産の基本をおさらいしたうえで、自己破産ができない確率がどのくらいなのか、自己破産ができないケースとはどういうケースなのかを解説します。
- 自己破産ができない確率は3~4%程度
- 免責不許可事由がある場合は免責がおりない
- 書類の作成や裁判所とのやりとりなど、自己破産の手続きは負担が大きくミスも起こりやすいため、弁護士に相談・依頼をするのがおすすめ
目次
そもそも自己破産とは
そもそも自己破産とは、借金を返せなくなった人の財産を清算する手続きです。また、借金を返す責任が「免責」されることで、経済生活の再生を図ることができます(破産法第1条・第2条・第253条)。
しかし、自己破産の手続きさえすれば、借金を返さなくて済むというわけではありません。免責が決定されるためには一定の要件があり、裁判所が免責許可の決定を行うからです。
自己破産で免責がおりない確率は3~4%
自己破産を申し立てた後に免責がおりなかった方の確率は、日本弁護士連合会(以下、日弁連)の調査(※)によると、3~4%程度です。その内訳は以下のとおり自主的に取下げをした場合がほとんどであり、免責不許可になる確率は1%未満となっています。
結果分類 | 割合 |
許可 | 96.77% |
不許可 | 0.57% |
申立却下・棄却 | 0.08% |
取下げ | 2.34% |
死亡終了 | 0.08% |
不明 | 0.16% |
※参照:日弁連「2017年破産事件及び個人再生事件記録調査」(PDF)
上記は2017年調査の結果のみ記載していますが、2014年調査では免責不許可0件ですので、免責不許可となる確率は非常に低いものだといえます。
とはいえ、自己破産を成功させるためには裁判所に適切な資料を作成して提出する必要がありますし、財産隠しや虚偽と見られることがないように対応しなければなりません。決して簡単なことではないのです。
弁護士に手続きを依頼すれば、はじめから終わりまでサポートしてくれます。
自己破産で免責がおりる確率が高い理由のひとつに、「弁護士に相談して方針を決め、手続きを依頼している方が多いから」というのもあるでしょう。
自己破産ができない!免責不許可事由とは?
先ほど、免責がおりない確率は3~4%程度と説明しました。
しかし、自己破産に関する法律である「破産法」では、免責許可にあたって除外要件が定められています。つまり、以降で紹介するケースに当てはまると借金を返し続けなければなりません。
免責許可の除外要件は免責不許可事由と呼ばれており、以下のようなケースが該当します(破産法第252条)。
- ギャンブルや浪費などで借金を作った場合
- 財産を隠した場合
- クレジットカードのショッピング枠を現金化した場合
- これから自己破産することを認識しつつ借金した場合
- 一部の債権者にだけ借金を返済した場合
- 7年以内に自己破産などをしている場合
- 裁判所に虚偽の申告をした場合
ギャンブルや浪費などで借金を作った場合
免責不許可事由としてまず挙げられるケースは、ギャンブルや浪費などで借金を作った場合です。破産法では「浪費又は賭博その他の射幸行為」と定められています(破産法第252条第1項第4号)。
具体的には次のようなものです。
- 競馬
- 競輪
- 競艇
- パチンコ
- 株取引
- FX取引
- 先物取引
- 暗号資産取引
なお、上記を行っただけでは免責不許可事由になりません。上記によって「著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと」が条件です。
「著しく」や「過大な債務」は具体的にどのくらいかについては、一概に言い切ることができません。個別具体的な状況によって判断されることになります。
なお、上記に当てはまる場合は「免責調査型の管財事件」として扱われる場合があります。調査を経て改善が認められるようであれば、「免責許可の決定をすることができる」(破産法第252条第2項)といった運用がされる場合もあるのです(裁量免責)。
財産を隠した場合
次に紹介するケースは、財産を隠した場合です。具体的には次のような場合が該当します。
- 財産が見つからないように隠した
- 財産を壊した
- 債権者に不利益な処分をした
- その他不当に価値を下げる行為をした
自己破産の手続きでは、現金・預金だけでなく、一定の価値があってお金に換えられるものは任意売却または執行という手続きによってお金に換えられ、債権者に配当されます(破産法第184条等)。
現金・預金、家や車などの財産があればお金に換えられてしまうため、財産を隠して手元に残しておきたいという気持ちも当然あるでしょう。
しかし、財産を隠すと免責許可が降りません。誠実に自己破産手続きに臨みましょう。
クレジットカードのショッピング枠を現金化した場合
クレジットカードのショッピング枠を現金化した場合、自己破産の免責不許可事由に該当します(破産法第252条第1項第2号)。具体的には、「信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと」に該当します。
クレジットカードのショッピング枠現金化とは、たとえば次のような流れで、実質的に高金利でお金を借りるものです。
- クレジットカードで指定商品を購入
- 提携買取業者が買い取ったことにしてお金が支払われる
- 指定商品の代金を業者に支払う
以上の行為は「貸付け」に該当し、さらに上記「1」と「3」の差額がいわゆる利息に該当するものとして貸金業法や出資法違反となる可能性があるものです。
消費者側の立場としても、高金利でお金を借りると経済状況が悪化することは当然ですので、安易に「即日現金化」などの言葉に騙されないことが重要といえます。
これから自己破産することを認識しつつ借金した場合
自己破産することを認識しつつ借金をした場合も免責不許可事由の1つです(破産法第252条第1項第5号)。
自己破産する予定があるからといって、借金を返す気もないのに借金を重ねる行為は社会的に許せるものではありません。そのため、このような行為があった場合は免責が認められないものとしているのです。
その一方で、この規定は破産手続開始申立日の前1年間であって、人を騙した(詐術)場合に限定されています。
また、該当したとしても最終的には個別具体的な事情を踏まえて裁判所が判断しますから、不安であれば裁判例などを知っている弁護士に相談することがおすすめです。
一部の債権者にだけ借金を返済した場合
一部の債権者にだけ借金を返済した場合も、免責不許可事由に挙げられています(破産法第252条第1項第3号)。
このような行為を「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼び、本来は公平平等に破産による配当を受けるべき債権者の権利を害する行為です。
なお、借金の返済だけでなく担保を与える行為も該当します。
7年以内に自己破産などをしている場合
7年以内に自己破産などをしている場合は、免責不許可事由です(破産法第252条第1項第10号)。
具体的には、以下の日から7年以内に免責許可の申立て(破産手続開始の申立て)をすると免責許可が下りません。
- 免責許可の決定が確定した日
- 給与所得者等再生の決定が確定した日
- ハードシップ免責の決定が確定した日
なお、免責許可の「決定日」ではなく「確定日」であることに注意してください。確定日とは免責許可の効力が発生する日であり、以下の流れで確定します。
- 免責許可の決定
- 免責許可の決定から約2週間後に官報公告(破産法第10条第1項)
- 官報掲載日の翌日に公告の効力が発生(破産法第10条第2項)
- 官報公告の効力発生日から起算して2週間が即時抗告期間(破産法第9条)
- 即時抗告期間が経過すると免責許可の決定が確定
たとえば、4月1日に官報公告がされたとしましょう。すると、その翌日である4月2日に公告の効力が発生します。4月2日から起算して2週間(14日)である4月15日までに不服申立てがなければ、4月16日午前0時に免責許可の決定が確定します。
裁判所に虚偽の申告をした場合
最後に紹介する免責不許可事由は、裁判所や破産管財人に虚偽の申告をした場合です(破産法第252条第1項第7号・第8号・第11号)。
破産法では以下のようにそれぞれ細かく定められています。自己破産は、不誠実であったり、手続き上のルールを守らなかったりした場合には、原則として免責が認められません。
- 虚偽の債権者名簿を提出したこと(破産法第252条第1項第7号)
- 裁判所が行う調査において、説明を拒んだり、虚偽の説明をしたりしたこと(破産法第252条第1項第8号)
- 破産管財人や債権者委員会、債権者集会の請求があったとき、必要な説明をしなければならないこと(破産法第40条第1項)
- 破産手続開始の決定後、遅滞なく財産を開示しなければならないこと(破産法第41条)
- 免責について裁判所や破産管財人が行う調査に協力しなければならないこと(破産法第250条第2項)
免責決定後に取り消しされることもある?
免責決定後に取消しされることもあります(破産法第254条)。具体的には以下の場合です。
- 詐欺破産罪で有罪判決が下りた
- 不正行為によって免責が許可され、債権者が免責取消しの申立てを行った
詐欺破産罪は罰則規定であり、債権者を害する目的で財産を隠したり、現状改変したりした場合に、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金刑に処すと規定されています(破産法第265条)。
自己破産が失敗しないよう、事前に弁護士に相談や依頼をして、借入理由や財産などは全て正直に話し、指示にしたがって誠実に手続きを進めましょう。
自己破産の不許可の際の対処法とは?
万が一、自己破産を申立てて免責不許可となってしまったら、借金を返し続けなければなりません。ただし、裁判所の決定には異議を申立てる(不服申立て)ことができます。
訴訟の判決に対する「控訴」と似たような制度で、自己破産や家事事件の審判による決定の場合は「即時抗告」と呼びます。いずれも、判決や決定に対して、決定から確定までの間に異議を申立てる必要があるものです。
ただし、即時抗告によって必ず免責が許可されるとは限りません。事前に弁護士に相談しておくことをおすすめします。
自己破産後はどうなる?メリット、デメリットは?
きちんと申立書を提出し、予納金を納めればほとんど自己破産ができることを紹介しました。それでは、自己破産後の生活はどうなるのでしょうか。
自己破産のメリットやデメリット、自己破産後の生活について紹介します。
自己破産後のメリットやデメリット
自己破産後のメリットやデメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット |
借金の返済負担がない | 20万円を超える財産は原則として手放す |
請求や督促がなくなる | ローンやクレジットが5年または10年間できない |
強制執行がなくなる | 一定の職業は手続期間中、制限される |
99万円以下の現金は手元に残る | 奨学金などの保証人に請求される(共倒れ) |
賃貸物件にはそのまま居住できる | 自己破産にもお金がかかる |
結婚・海外旅行・選挙権は制限されない | 官報に載る |
引越し時の審査に通りにくくなる | |
税金や社会保険料、養育費などは免責されない |
大まかにまとめると、デメリットとして20万円を超える財産は原則として手放し、ローンを組むことやクレジットカードを持つことはできなくなってしまいます。その一方で、借金の返済負担がなくなり、経済生活の再生を図ることができます。
自己破産後の生活
自己破産後の生活は、上記のとおりローンを組めず、クレジットカードを持てない生活となります。また、原則として車や持ち家を手放さなければなりません。
ただし、結局のところ借金の返済ができない状態であれば、自己破産にかかわらずローンもクレジットカードも利用できないはずです。そのため、早く再スタートを切るという点で、それらは自己破産のデメリットとはいえないかもしれません。
なお、自宅が賃貸の場合はそのまま住み続けることができますし、結婚や海外旅行、選挙権が制限されることはありません(免責許可決定後)。
自己破産した場合の財産はどうなる?残せる財産と残せない財産とは?
原則として車や持ち家は手放さなければならないと紹介しましたが、具体的には以下のような基準です(破産法第34条)。
- 99万円までの現金は手元に残せる
- 20万円以下の自動車や生命保険などは手元に残せる
地方裁判所によって若干の違いがありますので、詳しくは弁護士に相談すると良いでしょう。
まとめ
自己破産ができない確率は3~4%程度です。
とはいえ、免責不許可事由がある場合は免責がおりませんし、債権者を害する目的で財産を隠したり、現状改変したりした場合には詐欺破産罪となり、免責許可が取消されることもあります。
書類の作成や裁判所とのやりとりなど、自己破産の手続きは負担が大きくミスも起こりやすいため、弁護士に相談・依頼をすることをおすすめします。